2016.11.4


ヘルマン・フォン・ヘルムホルツ「音感覚論」(Die Lehre von den Tonempfindungen als physiologische Grundlage für die Theorie der Musik)

-音楽理論の生理学的基礎 -

の本邦初の全訳です。全国の書店、ネット書店でお求めください。

銀河書籍、A5版 570頁 (定価2,980円+税)ISBN 978-4-434-20074-8

こちらでもお求めいただけます。

http://www.shinozakiviolin.com/Tools/helmholtz.html

 

 

「音感覚論」紹介


本書の著者序文より

「本書はこれまでかなり別々に分かれていた学問の境界領域を統合しようとするものである。この境界領域の一つは物理学的音響学と生理学的音響学であり、もう一つは音楽学と美学である。

 

推薦の言葉

ヘルムホルツの歴史的名著。

音に関して物理学、生理学、音楽理論を網羅した名著であり、音楽関係者の必読の書である。

                          東京芸術大学名誉教授 東川清一

 

本書は、音色、発声、倍音、和音、音律などについて、生理学、物理学、音楽学的に分かりやすく述べており、音楽を志す全ての人に一度は眼を通して欲しい古典的名著である。

                          世界アカペラ連盟日本代表 犬飼将博

 

楽音の発生という物理現象を構築する楽器製作家にとって本書の存在は避けて通れないものだ。これから音楽や楽器の事を学んで行く者にとっても既に専門の道を歩んでいる者にも傍らに置いておくべき一冊であろう。

                          弦楽器製作家 篠崎 渡

 



取り扱っている主なテーマ:

第一部:振動の合成、倍音と音色、共鳴による楽音の解析、耳による楽音の解析、楽

     器の音色と倍音成分、音色の認識、耳の解剖学的構造

第二部:結合音のうなり、倍音のうなり、協和音と不協和音、低音の限界、和音につい

     て、結合音による長和音と短和音の違い、転回の場合の協和性

第三部:楽音の親近性、音階と調性、音楽様式の発展、調の協和音、調の組織、調整

     律の欠点、純正律の転調規則、不協和音と七の和音、声部進行の規則、美学

     との関係、芸術作品の原理、協和音および不協和音と意識との関係

付属書:共鳴器の寸法と製作、ピアノ弦の運動解析、ヴァイオリン弦の運動解析、フ

      ルーパイプとリードパイプの理論、母音の合成、蝸牛の基底膜の振動解析、

      結合音の理論、結合音のうなり解析、歌唱への純正律の適用、ボザンケ氏の

       純正律鍵盤の図面

 

初版第一刷(2014.12.18)の正誤表はこちら



「音感覚論」の中の図版の例:。

ヘルムホルツの共鳴器。尖った方を耳に当てる。これにより倍音成分を聞き分けられるようになった。(p.73)

リードパイプ。下から風を送る。棒を動かして音の高さを調整できる。(p.160)

 

膜状リード。手前の方から吹くと音が出る。金管楽器を吹くときの人間の唇および歌うときの咽頭がこれに相当する。(p.161)

倍音の位相が音色に関係しないことを証明した実験装置。(p.196)

3個の耳小骨、つまり槌骨、砧骨および鐙骨。

(p.213)

平均律音階の音の粗さ。オクターブと5度が最も粗さが少ない。次いで4度、長6度、長3度の順となる。(p.318)

 

バッハ「マタイ受難曲」における終止の例。(p.493)


いろいろな音を組み合わせて出すことができ、うなりも発生できるサイレンの構造図。p.653)


ボサンケ氏の作った1オクターブ53音、84鍵のハーモニウム鍵盤の一部分。側面図、正面図および上面図。

p.669

雑記

「音感覚論」にはいろいろ参考になる話が載っているので、既にご存知の方もおられるでしょうが、書いてみたいと思います。

 

1. オルガンと違ってピアノは何故このように普及したのか    

HiFiに凝っていたころ、パイプオルガンはうまく再生してみたい楽器の1つでした。その中で気がついたことは、特に新しい時代の曲はとにかく「うるさい」ということでした。当時は自分の再生装置の性能が悪いからだ、と解釈していましたが、本書を読んで、必ずしも装置の所為だけではない、ということが判ってきました。これがピアノの普及と関係があるとも、その頃は知りませんでした。

オルガンはなぜ「うるさいか」については本書に詳しく書かれています。かいつまんで言うと、パイプオルガンの1本のパイプの音はフルートの音に似て、純音に近い音です。1音に1本ずつのパイプを割り当てれば、音階のすべての高さの音は出せますが、楽器としては退屈な楽器にしかなりません。そこでいろいろな音をパイプを組み合わせて作るのですが、これが問題を引き起こします。1つの音だけなら良いのですが、複数の音を同時に出すと、組み合わせているすべてのパイプ同士でうなりを発生します。純正律に調律してあるならまだしも、平均律などの調整律だとこれが顕著に現れ、新しい時代の曲のように沢山の音を組み合わせるほど、うるさい音になる、という訳です。

一方ピアノはどうかというと、複数の弦を同時にガンと叩いた時には、パイプオルガンと同様に、、多数の倍音同士のうなりが発生するのですが、ハンマーのフェルトで余計な倍音は押さえてしまい、残った音はあまりうるさくないようにできる、というのがミソで、平均律であってもうなりがあまり気にならない、きれいな音にできるという訳です。どのような倍音を残せばよいか、またそれを実現するにはどうすればよいかも本書に詳しく書かれています。この仕組みのお陰でベートーベンのように和音も不協和音もガンガン叩くという作曲法が確立したという次第。ちなみにリードオルガンも同様に1つのリードで倍音を沢山含んだ鋭い音が出ますので、沢山の音を同時に弾くと、和音の積もりであってもうるさい音になります。(2016.10.6)

 

2. やかましくない楽器、組み合わせの難しい楽器

パイプオルガンのパイプ(1音に1本の場合)と同様にフルート純音に近い音を出します。どちらも強く吹くと音程が変わる宿命がありますが、フルートの場合はまだ演奏者が調整できます。オルガンの場合、音程が変わらないようにして音を大きくするには同じ音のパイプを増やすしかないのですが、それはそれでまた別の問題を引き起こすことが書かれています。

フルートのような純音に近い音は音程の境界を定めるのが難しくなり、「1本のフルートの演奏会ほどぞっとするものhない」という冗談がある(338ページ)が、和音を定める楽器と一緒に演奏すれば、こんな愛らしい楽器はない、とも述べています。

  クラリネットは円錐管で、偶数次の倍音を欠いているため、ヴァイオリンやオーボエと一緒に使うとき、同じ協和音であってもクラリネットが上の音を吹くか、下の音を吹くかでかなり違って響くに違いない、とその理由を詳しく説明しています。 

人間の声で言えば、ソプラノは純音に近いため(金切り声は別として)やかましくなく、バスの声は倍音を多く含むためにやかましく聞こえます。男声合唱がガラガラという響きを持つのは男声の持つこの多くの倍音が関係しています。ヘルムホルツの頃には無かった電気音響機器で歪みを付け加えれば、このガラガラはさらに増強されるに違いありません。   (2016.10.7)

 

 





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